パリは暑くて人が少ないので、美術収集家には素敵なギャラリーが多いことで知られる6区のRue de la Seineもこの通りがら〜んとしております。

これを進むと人気のサンジェルマン・デ・プレという地区に出ます。
ご存知の方も多い通り、7区にもギャラリーが並ぶ通りがあって、こちらの美術収集家や愛好家がそぞろ歩きでいるのが目にとまります。
ここは、思い出のある界隈で、デンマークの冬に見も心も冷え切ったあるクリスマスの季節に、日本からロンドンに来ていた友人がだったらパリで会いましょう!ということになり、彼女の好きなオスカー・ワイルドの最後の宿となったホテルに泊まることになりました。その知る人ぞ知るホテルがあるのがこの界隈なのです。ボザールと呼ばれる美術学校のあるところで、ピカソもこの近所に住んでいた時期があり、その他にもいろいろと逸話の多い場所だそうです。
今日は散歩がてら通りかかって、さりげないけれど、素晴らしいものが一杯ある・・趣味のよいというか合うというか、そういうギャラリーをみつけました。目を引いたのは、シャガールらしきデッサンとジャコメッティらしき作品・・・・・ちょっとためらいましたが、「入ってもいいですか?」ときくと、奥にいる上品な男性が「勿論、どうぞ」というので、ゆっくりと拝見させていただきました。大好きなピカソもありました・・・・
「もっとこちらまであがってきたらいかがです?」というので、奥の書斎になっているところまで伺いました。大好きなピカソやミロ、そしてふとみると写真で有名なマン・レイが描いたこの界隈の地図だという油絵の小品なんかもありました・・・・でも、地図にはみえない(笑)。
軽やかなクラシックがさりげなくラジオから聞こえて、とてもいい雰囲気です。
「ま、おかけなさい」と椅子をすすめられて、「私はピカソとお誕生日が一緒なんですよ・・・」「と、するとおいくつですか?」と聞かれて、それから話こむこと3時間余り・・・・。
私は元来話好きなので、話すともうとまらない・・・・それにこちらのご主人はとても教養があって品がある方、おまけに気さくなので居心地がいいので気がつくともう結構な時間になっていました。
日本では銀座の画廊などともお取引があるとかで、絵のことはあまり詳しくない私はいろいろ教えていただくことになりました。ピカソの人生についても、彼の死後、2人の女性が自殺したといわれていますが、実際は最後の奥さんだけで、もう一人のほうはアメリカで再婚してまだご健在らしいという新事実(?)もわかりました・・・・。
こういう方と会うと、つくづく思うんですが、今の社会では教養というのは「飾り」くらいにしかならないというかんじがしてきていますが、やっぱり、人間の魅力の最たるもんだとも思うんですね・・・。つくづく、このような素晴らしいエネルギーをもつものに毎日囲まれて、なんて恵まれた境遇にいるのかと、言うと、それは好きでなければしないだろうけど、偶然が重なってこの職業をやっているようなもんだ
と話していました。
それが、運命っていうやつです。
当たり前なんですが、画廊というのはそれぞれのセンスで集まる絵がそれぞれ違うわけで、自分の好きな作品が多い画廊というのは、自分と共通点があるわけです・・・・
今日、お邪魔した画廊はとても好きだと思うのが一杯・・・ありました。シャガールやピカソやジャコメッティは有名なのかもしれませんが・・・。
一方、巨匠の作品、名作とはいってもやはり売り手と買い手があって成り立つ世界。
本当にいいものを見抜く目とは別に、市場のトレンドというものとも上手く付き合っていかなくてはならないんですと話されていました。例えば、ルノアールはバブルのころはとてつもない高値がついていた、作品自体も大きなものが多いといえばそうらしいのですが、でも最近はその当時に比べると人気がなく、値段も落ちているとか・・・・彼は個人的に、お金があればルノワールを欲しいといってました・・・。
私はピカソのちっこいデッサンとジャコメティのデッサンが欲しい・・・・贅沢をいえば、マチスの色鮮やかな油絵が欲しい・・・(笑)この界隈には伝説的なアーチストゆかりの方が住んでいるんだそうです。例えば、世界で一番のジャコメッティの収集家といわれるアメリカ人のご老人は、若かりしとき、ピカソを追いかけまわしたところ、ピカソに玄関から追い出されたんだそうですが、そこで窓からピカソの家に入ってピカソをあきれさせたとか、その後ジャコメッティと知り合っていかれる話なんかも面白く話してくださいました。そのご老人は杖をついて看護人につきそわれてよくこの通りを歩いていたそうですが、最近は見かけない、訃報もきかない、はて?なんて話していました。(笑)
また、中国人と日本人のアートに関する態度がまるで違うというお話も大変おもしろかった・・・ご主人の知り合った人の中では、中国人というのはダイナミックではあるけれども、芸術というよりお金に換算して考える、ダイレクトな商売なんだそうです・・・もしくは、タッチも「力」一辺倒なかんじのものがすきなようで、微妙な陰影やニュアンスなどは関係ないかのように見えるらしいです・・・見ようによっては西洋の絵画を作品として鑑賞する素地がまだあまりないみたいです。
日本人はもっとどちらかというと、絵の持つ雰囲気や自分の好みなど、そういうものを重視して絵を買ったりするような印象があるという風にお話していました。なんだか、日本人としては、嬉しいですね。
これと同じようなことを、あるトップクラスのシャンパンのメゾンでもきいたことがあります。
日本人や中国人はよいお客さんになるかもしれないけれど、まだシャンパンを正当に評価、味わうことのできる人は少ないそうです。フランス、イギリス、ドイツ人は、シャンパンの価値を本当の意味で吟味するまで舌というか鼻が肥えているらしいですね。勿論、全てのフランス人、イギリス人、ドイツ人がシャンパンやワインに詳しかったりするわけではないです。知識としては日本人はかなり持っているらしいです・・・ただ、知識と味わう感覚は違うということです。
ごもっとも。
「何か絵をお持ちですか?」というので、「と〜んでもない、私にこういうものを買ってくれる男性と結婚したいですわ!」といって笑うと、微笑んでいました。
こういう出会いがあるから人生は面白い。
たまにワインの試飲の通訳などをすると、面白いというか教養のある「フランス人のよさ」がぎっしり詰まった人に会うことも時としてありますが、やっぱり、自国の文化や芸能に通じていることは、すごいヴァリューというか、魅力だと思います。
今、あまり奥行きのない、刺激性ばかりでニュアンスや味わいの乏しい「大衆化」してしまったもので溢れる世の中で、人の息吹が吹き込まれた芸術や伝統を味わうというのは、魂の糧、人としての感性の豊かさの源になると思います。
でも、それらを維持する環境を保つには、商業ベースで成り立たせなくてはいけないという事情もあるのでしょうけれど・・・。素人目からみると、こういうレベルの高い作品をさりげなく扱っているというのはかなり素敵です。
いずれにしても、ものは買えるるけれど、感性は養っていくもの。
「高級品と呼ばれるものに囲まれて、贅沢をしたい」と、「美しくて質のいいものに囲まれて、豊かに暮らしたい」というのは似て完全に非なるものだと、私は納得した次第です。
豊かに実る、楽しい午後となりました。
その画廊のご主人とは、ヴィスコンティの映画で好みが一致。
好き嫌いというよりは、究極のエレガンスを描いた監督・・・・・美もここまで極めると、もう拝んで見るしかないというようなかんじがします。(笑)
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